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 小児科を受診する人の多くは鼻水や咳、熱を訴えますが、これはかぜ症候群「かぜ」と言われるものです。子どもはよくかぜをひき、とくに乳幼児では年間3~7回のかぜをひくとされます。かぜはのどや鼻の感染症で、普通感冒、急性上気道炎、急性鼻咽頭炎、急性咽頭炎などと診断されます。この中で普通感冒はほぼ100%がウイルス感染であるのに対し、咽頭の炎症所見が明らかな鼻咽頭炎や咽頭炎には細菌性のものが含まれます。今月は小児科外来でもっとも多いかぜ症候群についてその原因・治療、取り扱い方、問題になることなどについて考えてみました。

 かぜ症候群の原因はウイルスが80~90%で、アデノ、エンテロ、インフルエンザ、パラインフルエンザ、ライノ、RSウイルスなど多くのウイルスが原因になります。これらのウイルスには流行時期があり、インフルエンザは冬に、エンテロウイルスは夏に保育園や学校など集団生活の中で流行します。この中で細菌感染として重要なのはA群溶血性連鎖球菌(容連菌)です。またウイルス感染に引き続き二次感染を起こす細菌にはインフルエンザ菌、肺炎球菌、黄色ブドウ球菌などがあります。肺炎マイコプラズマも原因となる重要な微生物です。

 かぜ症候群の原因ウイルスの中でもっとも多いのはライノウイルスで、秋・冬・春に流行し、ウイルス型が多く何回もかかります。インフルエンザはくしゃみや咳で飛沫感染しますが、ライノウイルスは鼻汁中のウイルスが手指や衣服に付着し、他の子どもがウイルスのついた手指で鼻や眼をこすることで感染します。したがって予防には手洗いが大切です。

 かぜ症候群は鼻汁・鼻閉(鼻づまり)から始まり発熱や咳をともなうこともありますが、普通は1週間くらいで自然に治癒します。乳幼児では年長児より症状が強く発熱で始まり不機嫌や食欲不振、嘔吐や下痢をともなうこともあります。鼻汁は最初は水様性で1~2日で粘液性に変わり、次第に膿性になります。乳幼児では鼻呼吸をしますから鼻閉があると哺乳困難や呼吸障害の原因になりますから注意が必要です。

2005年5月10日掲載

 B型肝炎のキャリア(保因者)の大部分は分娩時に発生すると言われます。妊婦がB型肝炎のキャリアである場合、生まれた子どもの95%に感染が起こり、85%がキャリアになります。妊娠中、ウイルスが健常な胎盤を通して胎内感染することはまれで、感染の多くは分娩時に臍帯から母体血が胎児に移行することや皮膚・粘膜を通して経産道感染が起こるとされます。このことから分娩時に感染予防処置をすればキャリアになることは大半が予防できると考えられます。

 B型肝炎は血液を介して感染しますから分娩は感染の最も危険な時期です。新生児期には免疫が十分に発達していませんから感染すると持続感染、すなわちキャリアになります。分娩を介して祖母から母へ、母から娘へとB型肝炎キャリアは何世代も延々と受けつがれて、家族性に肝硬変や肝ガンを多く引き起こしてきました。このような家族性の肝臓疾患を減少させる目的で開始されたのがB型肝炎の母子感染予防事業です。日本でこの事業が開始されたのは1985年で、1995年からは保険診療に組み込まれて予防法が一般化しました。

 B型肝炎のキャリアであることが妊娠中の血液検査で判明した場合には、分娩直後の新生児にB型肝炎ウイルスに対する抗体を含む免疫グロブリン製剤を投与します。この注射は出生後48時間以内と生後2ヵ月に2回投与します。B型肝炎ワクチンは生後2ヵ月、3ヵ月、5ヵ月の3回接種します。2回目のグロブリンは母親のウイルス量が少ない場合には省略します。乳児期にワクチンの効果が乏しい場合にはワクチンの追加接種をすることもあります。
 
 B型肝炎のワクチンは世界保健機関(WHO)の指導によって世界では乳児全員に接種している国が多くなっています。先進国でワクチンを乳幼児全員に接種していないのは日本と英国くらいだと言われます。B型肝炎は東南アジアなど多くの国々で蔓延しています。今後、日本でもエイズの増加とともにB型肝炎が広く流行する危険性があります。子どもたち全員にワクチン接種をすることも必要ではないでしょうか。

2005年4月26日掲載

 B型肝炎ウイルスは血液、精液、唾液を介して感染するので、母子感染、家族内感染、性行為、医療事故、輸血や血液製剤投与などが感染経路として挙げられます。ウイルス検査の進歩や使い捨ての注射器や注射針を使用することによって輸血などの医療を介するB型肝炎の感染機会は激減しています。その結果、B型肝炎の感染経路として母子感染や家族内感染が重要視されています。

 B型肝炎は感染後30~180日の潜伏期間で発病しますが、乳幼児期には無症状に経過することが多いとされます。ウイルスは直接、肝細胞を攻撃するわけではありません。ウイルスが感染した肝細胞を異物と認識した自分の免疫が肝細胞を攻撃するために肝障害を引き起こすのです。したがって免疫が十分に発達していない新生児や乳児では肝炎は発病しないのです。年長児で肝炎を発病すると、黄疸(おうだん)が出現する1~2週間前から発熱、全身倦怠などの感冒症状、食欲不振、吐き気や嘔吐など胃腸症状、関節痛、発疹(はっしん)などが見られます。血液検査で肝機能に異常が見られるのは黄疸出現前で、その後2~3ヵ月で肝機能は正常化します。発病直前から急性期に体内のウイルスが増加し、回復とともに血液中にウイルスに対する抗体が出現しB型肝炎ウイルスの量は減少します。

 感染したウイルスの量が少ない場合や、感染した人に免疫不全の状態があると、急性肝炎の症状があらわれず、持続感染の状態になります。肝細胞の中にウイルスが入り込んで長い期間ウイルスを排出し続けるのです。これがいわゆるキャリア(保因者)と呼ばれる状態です。キャリアの肝臓では常にウイルスが産生されており、これが感染源になります。キャリアの血液や唾液、精液に接触すると粘膜や皮膚の傷口などからウイルスが侵入して感染が起こります。キャリアの母親から生まれてくる新生児は分娩時に臍帯(さいたい)を通して汚染された血液が胎児に移行して感染します。また粘膜や皮膚を通して感染する経産道感染の危険性も指摘されています。

2005年4月19日掲載

 現在、肝炎ウイルスとして知られているのはA型からE型まで5つのウイルスですが、この中で比較的よくわかっているのはA型肝炎とB型肝炎です。そしてこの中で母子感染を起こすのはB型肝炎とC型肝炎です。B型肝炎ウイルスに対してはワクチンがあり、一定の母子感染予防法が確立されていますが、C型肝炎ウイルスにはワクチンがなく、母子感染の予防法についてもまだ確立されたものはありません。B型肝炎もC型肝炎も慢性肝炎、肝硬変、肝ガンの原因ウイルスとして重要視されています。A型肝炎は衛生状態の改善にともなって日本で自然にかかることは少なくなっていますが、感染様式に特徴があり現在でも大切な肝炎の原因のひとつに違いはありません。今月は一般に良く知られたA型肝炎とB型肝炎、とくにB型肝炎の母子感染予防についてお話しをしたいと思います。

 A型肝炎は患者の糞便中に排泄されたウイルスで汚染された水から経口感染します。汚染された水や生野菜、汚染された海水に棲むカキなど貝類を生で食べると感染します。また家族内感染を起こすこともあります。上下水道が完備した日本ではA型肝炎は激減しており、現在50歳以下の日本人のほとんどはA型肝炎に対する抗体を持っていません。しかし発展途上国など上下水道が整備されていない所では、汚染された水によるA型肝炎は珍しいものではありません。したがって免疫を持たない若い人達が外国旅行でA型肝炎にかかることがあります。

 A型肝炎の潜伏期間は2~6週間とされますが、約30日の潜伏期間の後に発熱、全身倦怠感、食欲不振などが出現した後、吐き気や腹痛などが加わってその後に黄疸が出現します。その後、自覚症状は回復に向かいます。黄疸出現前後10日間くらいがもっともウイルス排出が多く感染源になります。子どものA型肝炎は一般に軽いことが多く黄疸が出ない場合もありますが、そのために診断が遅れて感染源になることがあり注意が必要です。A型肝炎はB型やC型肝炎と異なり輸血など血液を介する感染の心配はありません。

2005年4月12日掲載

 今年4月1日から結核予防法が一部改定され、ツベルクリン反応(ツ反)検査をせずにBCGを接種することになります。結核は一時に比べると随分減少していますが、社会情勢の変化によって再び蔓延する可能性があります。発展途上国からの入国者が増えること、ホームレスなど結核検診を受けていない人が多くなること、エイズの増加など免疫機能の低下した人が多くなることなどによって将来結核は増加する恐れがあります。

 結核に感染して1~2ヵ月するとツ反が陽転します。これは結核菌の感染が成立した証拠です。この時点でレントゲン検査やCT検査で異常が見つかれば結核を発病したとして治療を行います。ツ反が陽転していても発病していない場合、乳幼児では抗結核薬を内服して発病を予防する必要があります。これは乳幼児の免疫が弱くて感染すると発病する危険性が高く、発病すれば重症の結核になりやすいためです。家族が発病した場合には定期検診を行い発病の有無を厳重に監視する必要があります。

 今年4月からはツ反をせずにBCG接種を行うようになりましたから、注意しておかなければツ反自然陽転の乳児を発見する機会を逃してしまう可能性があります。このため結核にかかる前にBCG接種を行う必要性がより高くなったのです。ただ新生児などのようにあまり早期の予防接種では子どもに免疫不全など予防接種による強い副反応を起こす危険性の有無を予測することが難しい場合があり、早期のBCG接種に危惧する意見もあります。したがって今後のBCG接種は今まで以上に十分な問診を尽くすことや、確実な手技で結核に対する免疫が出来るように小児科専門医がBCGを行うことが求められます。

 現在、乳幼児に対するツ反の実施率は非常に高いとされますが、これは4歳までに実施された数字で、6ヵ月までに実施されたものは50.3%、1歳までは80.5%となっています。今年4月からのBCG接種を生後6ヵ月までのほとんどの乳児に行うためには大変な努力をする必要があると考えられます。

2005年3月22日掲載

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