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 低身長の原因疾患にはさまざまなものがありますが、最も大切なのは成長ホルモンの不足によるものです。成長ホルモンの分泌が少なければ身長の伸びは悪くなります。成長ホルモンは骨に直接作用して軟骨細胞を増殖させるとともに、肝臓からインスリン様成長因子を分泌させて成長を促します。成長ホルモンはこのほかにもタンパク代謝や糖質代謝、脂質代謝にも影響をおよぼしています。成長ホルモンは下垂体から分泌されますが、その分泌は視床下部から出るソマトスタチンや成長ホルモン分泌ホルモンで調節されています。

 成長ホルモンの分泌が悪くて低身長を来したものが成長ホルモン分泌不全性低身長です。成長ホルモン分泌不全は多くが原因不明ですが、中には視床下部や下垂体の腫瘍(しゅよう)が発見されることがあります。また従来、原因不明の成長ホルモン分泌不全とされていた人でも、近年MRI検査の進歩により異常が発見されることがあります。骨盤位分娩や新生児仮死など分娩時の異常がある人の中にはMRI検査で下垂体柄が見えないとか下垂体の低形成などが発見されることがあります。

 成長曲線や骨レントゲンによって、成長ホルモン分泌不全が疑われた場合には成長ホルモンの分泌を調べる負荷試験が行われます。2種類以上の負荷試験で分泌が悪いことが確認されれば成長ホルモンを使用することができます。成長ホルモンによる治療は注射で、成長が止まるまで毎日注射するようになります。

 昔から「寝る子は育つ」ということわざがあります。成長ホルモンの分泌は深い睡眠に合わせて分泌量が増加します。ぐっすり眠ると分泌が良くなるのです。睡眠が障害されるような疾患があれば成長ホルモンの分泌は悪くなり身長の伸びも悪くなります。また成長ホルモンは心理的な要因で分泌が悪くなることがあり、被虐待児で低身長が見られることはよく知られています。成長ホルモンの分泌不全がなくて身長が低い人は心身ともに健全な生活を心がけよく食べ、よく運動をし、よい睡眠をとることが大切です。

2005年6月28日掲載

 低身長は本人にとっても両親にとっても心配なものです。とくに思春期前になると多くの子どもの身長が急速に伸び始めることで身長の個人差が大きくなりますから不安も増します。思春期前には男子で年間10cm、女子で8cmと身長が急速に伸びます。このことを思春期成長スパートと呼びます。このスパートが終わると伸びは穏やかになりやがて最終身長になります。したがって早くに思春期が来た子どもの身長は早く停止し、遅くに思春期を迎えた子どもはゆっくり長く伸びる結果になります。

 身長の伸びには成長ホルモン、甲状腺ホルモン、性ホルモンが深く関与しています。とくに思春期成長スパートに関与するのは性ホルモンです。性ホルモンが分泌され始めると二次性徴が表れます。男子では精巣の容積が増大し、女子では乳房が発育してきます。それと同時に身長が急速に伸び始めます。一般に男子では10~14歳、女子では8~13歳で二次性徴が見られます。しかし性ホルモンは骨の伸びに関与するとともに骨の成熟にも関与します。骨が成熟すると太く強くなりますが、骨の伸びは停止します。したがって性ホルモンの分泌が増加して思春期になると間もなく成長は停止しそこが最終身長になります。

 身長が伸びるのは、長管骨末端の軟骨細胞が増殖するためです。つまり骨が縦軸方向に伸びることによって身長が伸びるのです。長管骨の中央は骨幹部、先端は骨端部と呼ばれます。その境界に軟骨成長板と呼ばれる部分があり、この部分が盛んに細胞増殖を繰り返すことによって骨が伸びます。増殖細胞に石灰が沈着することで骨は強度を増します。骨の成熟が進むと軟骨成長版における細胞の増殖が減少して骨の石灰化が進みます。成長が止まるときには骨幹部と骨端部の境界がわからなくなります。これがレントゲン上の骨端線閉鎖という現象で、成長が止まるサインです。

 もし低身長が内分泌異常などの原因で治療を要する場合でも思春期に入れば間もなく骨端線は閉鎖してしまいます。低身長に気付いた場合には子どもに二次性徴が出現する前に専門医に相談することが大切です。

2005年6月21日掲載

 身長が低くても肉体的な痛みをともなう訳ではありませんから背の低い人の悩みは普通の人には理解され難いものです。身長が低いと社会的に不利な取り扱いを受けることや、子ども心に劣等感が芽生える原因になることがあります。子どもの身長は両親の身長によって遺伝的に決まりますが、母親の胎内環境や病気の影響を受けて出生時に小さく生まれてくることがあります。さらに本人の内分泌疾患やその他の身体疾患によるものや生育環境などの影響を受けて成長が障害されることもあります。しかし身長が低いと悩んでいる人の中にはまったく異常が見られない人もあります。今月は切実な悩みの種になる低身長について考えてみました。

 身長が正常範囲であるかどうかを判断するには同性・同年齢の子どもの標準身長と比較する必要があります。日本人の男女別、年齢別の平均値と標準偏差が表されています。この表を利用すると、各年齢の1ヵ月毎の平均値と標準偏差がわかります。これをグラフにしたものが成長曲線です。このグラフには平均値を真ん中に、上下に標準偏差の1倍および2倍の線が描かれています。男女別のグラフには5本の線が描かれています。年齢にあわせてグラフ上に自分の身長を書き込むだけで、それが平均値と比較してどのくらい差があるのかすぐにわかります。一般に平均値から標準偏差の2倍以上小さい場合を低身長とします。したがってグラフに描いたときに一番下の線よりも下に自分の身長が来れば低身長と判断されます。乳幼児期からの身長をグラフ上に点を打つと、その子どもの成長曲線を描くことが出来ます。成長曲線には身長と体重が表されていますから肥満などを判定することにも利用できます。成長曲線を描くことで、低身長の発生時期や低身長の程度、1年間の身長の伸び、将来の最終身長を予想することができます。また成長曲線のパターンから多くの疾患を推測することができます。

 背が低いと悩んでいる場合には、まず乳幼児期からの身体計測の記録を利用して成長曲線を描いて見ることが大切です。

2005年6月14日掲載

 私たち小児科医にとって診療上、抗生剤はとても大切な薬剤です。細菌感染を治療する上で抗生剤療法はもっとも基本的な治療法です。しかし最近は広い範囲の細菌に効果があって副作用が少ない抗生剤が現れた結果、抗生剤が安易に投与される傾向にあります。
 子どもの発熱の原因の多くを占めるかぜ症候群はウイルス感染症がほとんどですから抗生剤は効きません。小児の中には抵抗力や体力がなくてすぐに二次的な細菌感染症を合併して、重症になる人もありますが、かぜで発熱している子ども全員に抗生剤を投与することは望ましいことではありません。
 
 戦後、抗生剤が使用できるようになって感染症の治療は格段の進歩を遂げました。しかし抗生剤の使用量の増加にともなって抗生剤の効かない耐性菌が増加してきました。抗生剤の進歩と細菌の耐性化が繰り返されてさまざまな問題が見られるようになりました。私たちが使用することのできる抗生剤は無限にある訳ではありません。とくに小児に使用できる抗生剤は成人に比べると種類が少なく、効果や副作用の点でも限られています。抗生剤の進歩は目覚ましくて従来なら入院して注射・点滴をしなければ治療できなかったような多くの細菌感染症が外来で治療可能になっています。

 私たちは抗生剤の効かないウイルス疾患にあまりにも無制限に抗生剤を使用してきました。その結果、現在では外来で見る「とびひ」の原因である黄色ブドウ球菌はほとんどの抗生剤に耐性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)となっています。また呼吸器系や耳鼻科領域の感染症の原因細菌である肺炎球菌も多くの抗生剤に耐性を示すようになっています。私たちの身体には細菌に対する抵抗力があります。鼻やのど、腸管内には常在菌として多くの細菌が存在してさまざまな役割を担っています。これらの常在菌をすべて殺すような薬はかえって害になります。本当に病気を引き起こしている原因細菌のみをねらって殺す薬が必要なのです。本来、必要のない薬を投与することは、本当に治療が必要な重症細菌感症に出会ったときの治療に困ることになります。

2005年5月24日掲載

 かぜ症候群は自然治癒する傾向の強い疾患ですから、特別な治療を要することは少なく、一般的な治療が大切です。治療の原則は安静、保温、栄養を良い状態に保つことです。とくにライノウイルスは鼻水や鼻閉が主な症状になりますから鼻呼吸が中心の乳幼児では呼吸障害を来すことがあります。寒くて乾燥する時期には保温や保湿を、発熱にともなって食欲が低下するときには水分が多くて軟らかい消化吸収の良い食事を与えます。元気があっても発熱中は安静にすることを勧めます。入浴に対する考え方はさまざまですが、熱が高いときや元気がないときにはひかえた方がいいでしょう。

 かぜ症候群に対する薬物療法は一般療法に準じたものになります。鼻水や鼻づまりに対しては抗ヒスタミン剤の投与を行います。咳(せき)が多いときには咳止めを使用することもありますが、痰(たん)がからんでゼロゼロするときには気管支拡張剤や去痰剤を投与します。抗ヒスタミン剤でも痰が粘くなりますから注意が必要です。

 発熱に対して解熱剤の投与は慎重でなければなりません。単に熱を下げるための薬剤は必要ありません。全身状態が良く機嫌が良いときや食欲もあるときには使用しない方がいいでしょう。ひどく機嫌の悪いときや痛みが強いときにその痛みを取る目的で必要最低限の使用は許されると考えられます。  

 かぜ症候群に対する抗生剤投与は必要ありません。かぜの原因はほとんどがウイルスですから細菌を殺す抗生剤は意味がありません。抗生剤の投与理由の中に、二次的な細菌感染の予防ということが挙げられますが、これも有効であるとする根拠はないとされます。抗生剤使用にあたって、もっとも大切なのは原因菌です。原因が明らかに細菌であること、原因細菌は何かを考えて抗生剤を投与するのが大事です。ただ熱が高いからとか、ただのどが赤いからと、漫然と抗生剤を投与すると抗生剤に対する耐性菌を増加させます。本当に重大な細菌感染症にかかったときに使用できる薬剤がなくなると大変なことになります。

2005年5月17日掲載

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