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県民の皆さまへ

 今月はインフルエンザについてお話してきました。インフルエンザは高熱を特徴とする疾患でさまざまな合併症があります。とくに子どものインフルエンザ脳症は死亡率が高く後遺症を残しやすい疾患です。

 インフルエンザ脳症を疑う症状にはけいれん、意識障害、異常な行動があります。脳症は発熱後早期に発病することが多く、異常行動の発生に注意する必要があります。

 しかし子どもでは脳症でなくても高熱そのもののための異常な行動が見られることがあります。この状態を熱せん妄と言います。インフルエンザで高熱があるときに異常な行動があってもすべてが脳症であるとはかぎりません。脳症による異常行動と熱せん妄の区別はまだはっきりわかっていません。異常行動にけいれんを合併したり異常行動が長く続く場合には注意して十分に観察する必要があります。

 さらに最近、インフルエンザの治療薬であるオセルタミビル(商品名タミフル)による異常行動が報告されています。オセルタミビル服用3時間半後にはだしで家を飛び出しトラックにはねられた高校生や服用2時間後にマンションから転落死した中学生などが報告されました。

 インフルエンザの高熱による異常行動なのか、オセルタミビルによる異常行動なのかはわかっていません。これらの発生頻度には差がないとする調査報告もありますが、まだ結論づけられていません。

 ただこれらの異常行動がインフルエンザの発病初期やオセルタミビル服用の初期に発生していることから、インフルエンザの発病初期や治療開始直後には子どもから絶対に目を離さないようにすることが大切です。

 オセルタミビルをはじめ抗ウイルス剤の出現でインフルエンザの治療は飛躍的に進歩しました。しかし抗ウイルス剤には副作用があること、薬剤に対する耐性ウイルスも増加していることを知っておく必要があります。インフルエンザに対してはなによりも予防に努めることが大切です。

2007年2月27日掲載

 インフルエンザは高熱が特徴のウイルス疾患ですから子どもにとっては大変重い症状です。ただし子どもがインフルエンザだけで死ぬことはめったにありません。しかしインフルエンザ脳症だけは別です。かかると死亡率が高く、たとえ治っても重い後遺症が残ることがあります。

 インフルエンザ脳症はインフルエンザの合併症の中でもっとも重いものです。以前はインフルエンザ脳症にかかると30%は死亡し、25%は重い後遺症を残すとされました。その後治療法の改善などで死亡率は15%くらいまで低下しましたが重症の合併症であることに変わりはありません。

 脳炎と脳症はよく似た病気です。症状だけから区別することはできません。脳炎は脳に直接ウイルスが侵入、増殖して脳に炎症を起こす疾患です。神経細胞がウイルスによって破壊されます。この時、脳内にはリンパ球やマクロファージと呼ばれる炎症細胞が多く見られ、脳は腫れやすくなります。

 これに対して脳症は脳の中にはウイルスも炎症細胞の増加も見られません。それでも脳が腫れやすくなって頭蓋(ずがい)内の圧力が高くなっています。その結果、脳全体の機能が低下して意識障害を起こします。

 インフルエンザ脳症の代表的な症状はけいれん、意識障害、異常行動です。インフルエンザは高熱を特徴としますから、脳症でない場合にもよく熱性けいれんを起こすことがあります。発病初期のけいれんが熱性けいれんなのか、脳症にともなうけいれんなのかは専門家でもすぐに区別することはできません。

 ただし、けいれんが止まっているのに意識がはっきりしない、15~20分以上けいれんが続いた、けいれんの前後に異常な言動が見られた時などには脳症を疑って十分に経過観察する必要があります。

 インフルエンザ脳症の中にはいろいろな疾患が含まれている可能性があります。その中の原因のひとつに解熱剤の使用がきっかけとなった脳症があります。発熱もウイルスと戦う免疫反応による大切な症状ですから、安易な解熱剤の使用は控えなければいけません。

2007年2月20日掲載

 今年もインフルエンザの流行する時期になりました。毎年この時期になるとインフルエンザの流行が話題に上ります。今月はインフルエンザにともなう合併症について考えてみました。

 インフルエンザはインフルエンザウイルスによる呼吸器感染症で流行性感冒と呼ばれるものです。毎年12月から3月に流行が見られます。今年は1月の時点ではまだ大きな流行が見られません。

 インフルエンザは流行すれば人から人への伝染力が強く、人口の5~10%がかかると言われます。とくに年少児ではこの確率が高く30~50%がかかると言われます。これは子どもたちには体力や抵抗力がないことに加えて、集団生活をするのでその中でうつしあいをすることがその原因です。

 インフルエンザウイルスの感染は咳(せき)やくしゃみによって飛び散った分泌物を直接吸い込むことによって起こります。乾燥した状態では分泌物が空中に長く浮遊した状態が続きます。子ども同士では鼻水や痰(たん)などの分泌物に直接接触することでの感染もあります。

 インフルエンザの潜伏期間は1~4日ですが発病前からウイルスが排出されます。発病後1~2日間がウイルス排出のピークです。その後1~2週間はウイルスが上気道から排出されます。

 インフルエンザの症状の特徴は突然の発熱です。発熱の持続は数日間ですが小児では発熱の程度が高く、また一度下がり始めた熱が再び上昇する二峰性発熱パターンを示すことがあります。インフルエンザは咳や鼻水をともなうことに加えて頭痛、関節痛、筋肉痛、全身倦怠(けんたい)感などの全身症状が強いことが特徴です。

 嘔吐(おうと)や下痢、腹痛などの消化器症状も多く、中耳炎の合併も20%くらいに見られます。高熱にともなう熱性けいれんの合併もあります。

 インフルエンザは子どもにとっても大人にとっても大変重要な疾患ですから、みんなで予防に努めることが大切です。

2007年2月13日掲載

 今月はウイルス性胃腸炎、嘔吐(おうと)下痢症についてお話しています。嘔吐下痢症はその原因ウイルスによって流行時期が少し異なります。ノロウイルスは秋から冬に、ロタウイルスは冬から春に流行しますが、嘔吐下痢症は1年を通して見られます。これは嘔吐下痢症の原因がノロウイルスとロタウイルスだけではなく、アデノウイルスやエンテロウイルスなどその他多くのウイルスが原因となるからです。

 昨年12月に全国で大流行したノロウイルスによる胃腸炎は突然はじまる嘔吐に発熱と下痢をともなうものです。症状は比較的軽症ですが、このウイルスは感染力が強く集団発生することが特徴です。さらに乳幼児だけでなく高齢者までの全年齢層に感染しますから注意が必要です。

 ノロウイルスの伝染力が強いのはごく少量のウイルスでも感染して発病するからです。また症状が消失した後も長くウイルスが排出されますから、症状のない人からもうつることがあります。

 さらにこのウイルスには何度もかかることがあります。これはノロウイルスに感染した後でも長期に渡る免疫ができにくいことや、ウイルスに多くの型があることなどが原因と考えられています。

 嘔吐下痢症が流行する時期に注意することは嘔吐や腹痛を来す他の疾患を見落とさないことです。とくに乳幼児ではひどい不機嫌や全身状態の悪い子どもを見た場合に腸重積など他の重篤な病気を見逃すようなことがあってはなりません。

 嘔吐下痢症を起こす多くのウイルスに対して有効な薬剤はありません。肝心なことは感染症に対する治療よりも感染症を予防することです。

 嘔吐下痢症はウイルス性の胃腸炎ですが、人から人にうつる感染症でもあります。患者さんが出た集団ではウイルスが長期間排出されている可能性があります。保育所、幼稚園、学校、病院、介護施設などでは保育士、教職員、医療従事者や介護職員などがもっとも注意する必要があります。

2007年1月23日掲載

 乳幼児に見られる嘔吐(おうと)下痢症の原因の多くはウイルスですが、昨年11月から12月に全国で大流行したのはノロウイルスが原因の胃腸炎です。その頻度はロタウイルスに次いで多いとされます。

 ノロウイルスによる嘔吐下痢症の症状はロタウイルスによるものよりも軽いと言われます。しかしノロウイルスはロタウイルスよりも伝染力が強く、集団発生する点でやっかいなウイルスです。

 ノロウイルスは従来、小型球形ウイルスと呼ばれて冬に起こる原因が分らない食中毒の代表でした。最近これがノロウイルスによる食中毒と判明したのです。

 ノロウイルスは河口に居る二枚貝の腸管に生息しており、これを食べた人に感染して胃腸炎を起こします。これまではカキの生食が原因で起こる食中毒でした。しかしこのウイルスが一度人に感染すると、吐物や糞便(ふんべん)を介して他の人にうつります。

 ノロウイルスの潜伏期間は24~48時間です。症状は嘔吐、下痢、発熱です。症状はロタウイルスによるものよりも軽症です。しかし乳幼児だけでなく成人にも感染して、とくに老人や病人では脱水症を起こすなど重症になって死亡する例もあります。

 ノロウイルスによる嘔吐下痢症も他のウイルスと同様に有効な薬剤はありません。初期の治療は嘔吐と発熱によって失われる水分と電解質を補給することです。多くは最初の1~2日間で症状が軽くなりますから、この間の水分や電解質の補給に注意することで自然に治ります。

 しかし時には嘔吐が長く続く場合や激しい下痢のために脱水症を起こすことがあります。治療用の経口電解質製剤を利用することによって水分と電解質を補給すれば点滴をせずにすませることもできます。

 ただし症状がなくなった後も1週間くらいはウイルスが糞便中に出続けますから、集団生活を行うには手洗いの励行などの予防処置を続けることが大切です。

2007年1月16日掲載

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