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【質問】 子宮癌手術後 右足に腫れ

 60代の女性です。昨年末に子宮癌(がん)の手術を受け、子宮を摘出しました。以来、慢性的に右足が腫れて痛みがあります。主治医からは「リンパ浮腫になるかも」と言われました。なぜリンパ浮腫が起こるのでしょう。薬や治療で治すことはできないのでしょうか。よい治療法があれば教えてください。



【答え】 リンパ浮腫-脚への強い負荷避けて-

徳島大学病院産婦人科 古本博孝

 体の中には血管とは別に、リンパ管という細い管が網の目のように張り巡らされており、リンパ液という透明な体液が末しょうから体の中心に向けて流れています。この中に細菌が入ると容易に体の中心に達してしまうので、細菌や異物の侵入を防ぐために要所要所にリンパ節があり、関所のような役目をしています。

 癌細胞がリンパ管の中に入った場合も、このリンパ節でせき止められます。しかし、癌細胞の場合はそのリンパ節である程度増殖すると、次のリンパ節へ転移します。従って癌の手術の場合、転移している可能性のあるリンパ節を切除する必要があります。

 早期の場合は、できるだけリンパ節の切除を省略するよう努力していますが、ある程度進行している場合はリンパ節を切除せざるを得ません。リンパ節を切除するとそこに流入するリンパ管が一緒に取れてしまうので、例えば子宮癌の場合、骨盤のリンパ節を切除すると足(足首から先)から体の中心に向かうリンパ液の流れが阻害され、脚(太ももから下)に浮腫が出現することがあります。

 初期のリンパ浮腫は脚が腫れて、押すと陥没し、可逆性で腫れが現れたり、消えたりします。さらに悪化すると腫れはひかなくなり、皮膚が硬くなって押しても陥没しなくなります。この状態で放置すると、脚はさらに腫れ、皮膚と皮下組織はさらに硬くなって、象の脚のようになります。

 もちろんリンパ浮腫が出現しない方も多くいますし、ほとんどは軽度の浮腫で治まりますので、むやみに心配する必要はありません。しかしリンパ浮腫は、まず予防、そして兆候が現れた場合には早期に治療することが肝要です。

 予防するためには、脚の皮膚が傷つくことや、きつい衣類などで体を圧迫する、高いヒールの靴を履く、長時間立つ、重い物を持ち上げるといった動きはなるべく避けましょう。少し歩くことはよいと思います。

 また、足の先の小さなきずから細菌が侵入し、炎症を起こすとリンパ浮腫が悪化するので、足のスキンケアが必要です。皮膚が赤く腫れて痛みを伴う場合は一刻も早く病院を受診して治療する必要があります。

 就寝時など、可能な場合は脚を少し高くしておきましょう。脚の末しょうから頭に向けてマッサージすることも有用ですが、これはさするような感じで行います。強くすると浮腫を悪化させるので、主治医と相談して行って下さい。

 リンパ浮腫の治療は、リンパマッサージや弾性ストッキングなどの圧迫療法、圧迫した状態での運動療法、腰部交感神経ブロック、リンパ球動注療法、リンパ管の縫合などの外科治療などさまざまな方法があります。薬はあまり効果がありません。

 治療法の詳細は述べませんが、リンパ浮腫は長期間放置するほど治療が困難になるので、早めの治療が大事です。また徳島にはリンパ浮腫専門のクリニックもあるので、主治医に紹介してもらうのもいいでしょう。

徳島新聞2009年4月12日号より転載

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