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【質問】 抗生物質・整腸剤必要か

 3歳児の男児です。下痢が続くので病院に連れていったところ「細菌性腸炎」と診断されました。食欲はあり熱はありません。抗生物質と整腸剤を処方されましたが、子どもは自力で治した方がいいと薬を出さない病院もあるようです。抗生物質などは飲んだ方がいいのですか?保育所は休ませていますが、他人にうつるのでしょうか。今後、予防するにはどうしたらいいでしょうか。



【答え】 細菌性腸炎 -原因菌や便の性状で判断-

古川病院小児科医 中川礼子(徳島市寺島本町西)

 感染性胃腸炎は、小児によく見られる病気です。原因によって大きく二つに分けられます。一つはウイルス感染によるウイルス性胃腸炎(嘔吐(おうと)下痢症)、もう一つは細菌感染による細菌性胃腸炎です。ご相談のお子さんは細菌性胃腸炎と診断されていますので、細菌性胃腸炎について簡単に説明いたします。

 細菌性胃腸炎の主な原因菌として、サルモネラ、カンピロバクター、病原性大腸菌が挙げられます。いずれも、便中の細菌を培養検査すれば簡単に診断できます。

 夏場はサルモネラとカンピロバクターの感染が多く、無症状で経過する場合もありますが、激しい腹痛、悪心、嘔吐、粘血便を伴う水様性下痢、発熱などの症状を来します。経口補液による脱水症の予防だけで自然に治る場合もありますが、症状が重い場合は抗生物質の投与が必要となります。

 また大腸菌は、健康な人の腸管内に無害のまま常在するもの、腸管外病原菌として尿路感染症や肺炎などを起こすもの、病原性大腸菌として腸管感染症を起こすものの三つに大別されます。

 病原性大腸菌は、1996年夏に大阪府堺市の小学生の間で集団感染を起こしたO-157が有名ですが、O-157以外にも多数存在し、すべてが重症化するわけではありません。ベロ毒素とよばれる毒素を産生するかどうかが重要で、毒性が強い場合は溶血性尿毒症症候群(HUS)という重篤な合併症に注意する必要があります。これも便培養検査で簡単に分かります。

 細菌性胃腸炎の治療として抗生物質を投与する場合は、原則として注射ではなく内服で行います。長期内服は行わず、使用期間は3~5日間程度とします。下痢止めは使用しません。整腸剤は下痢の程度により判断します。病原性大腸菌の治療に抗生物質を投与するべきかは、いまだ議論のあるところですが、現実的には、多くの臨床医が抗生物質を積極的に使用しています。

 ご質問のお子さんの場合は、食欲もあり発熱もないようで、抗生物質は必要ないかもしれませんが、原因菌が何かが重要です。整腸剤については、下痢の回数や便の性状を把握することが大切なので、主治医の先生に相談することをお勧めします。

 保育園では、トイレの後の手洗いが不十分だと他人にうつるかもしれません。一人で排泄(はいせつ)ができる年齢ですので、下痢の回数が少なくなり、しっかりと手洗いができるならば、主治医と相談の上、登園しても構わないと思います。

 細菌性胃腸炎の予防としては、生肉や生卵の摂食を避け、十分加熱処理したものを食べるようにしてください。十分な手洗いと、生肉などを調理した器具の洗浄も大切です。野菜を生で食べる場合は、水道の流水でしっかりと洗ってください。また、ペットなどから感染する場合もありますので、動物に触った後の手洗いも大事です。

徳島新聞2010年7月4日号より転載

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